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ぼくも君も、みなさんも入れて「We」
配信日 2024・08・15
2024年7月1日、ローランドの社長がゴードン・レイゾン氏から蓑輪雅弘さんにバトンタッチされました。「社長になろう」なんてツユほども考えていなかった蓑輪さんが代表取締役社長に就任するまでのストーリーを追っています。 おはようございます。坪井佳織です。
前回までのあらすじはこちら
DTM開発部署からEDIROL(エディロール)の営業推進部への異動を告げられ、「エンジニアとしてクビになったんだ・・・」と落ち込んでいた蓑輪さんでしたが、本当は、関西出身の担当役員が「イベントで標準語で話せて、技術も分かる人材」として引き抜いたのでした。あ、蓑輪社長は千葉県出身です。
・自分が開発した製品を分かりやすく説明する楽しさ・一緒に働いていたエンジニアたちと強いパイプがあるので、開発情報をどんどん教えてもらえる ・社外の記者さんたちが、蓑輪さんの持っている、エンジニア寄りの貴重な情報を重宝してくれた ・自分が開発に携わっていたから、苦労も人もよく知っている。愛情を持って製品を説明できる
こんな経験が重なり、「エンジニアとしてはあまり戦力になれなかったけど、この形なら会社に貢献できる!」と自信を高めていきました。
その頃、EDIROLから発売されていたのは、R-1というフィールドレコーダーでした。
実はわたし、この頃、合併した新浜松市のイメージソングコンテストで2位になりまして、景品がこのR-1だったんです笑。
第一印象は「何コレ?」でしたw こんなローランド製品(正しくはEDIROL製品)、見たことないw
説明には「小鳥の声や街の雑踏などを録音する機械」って書いてあったんですよwww だから「フィールドレコーダー」だと。
いや、小鳥の声・・・、録音せんし。
しばらく使ってなかったんだけど、PC内の音源をめっちゃいい音でデジタル録音できるわ、ライブとか練習とか気軽に録れるわ、「それを先に言ってよ!」って感じで、超愛用してました。宣伝文句として「こんなにコンパクトに」って書いてありましたが、まぁまぁデカかったんです。
実はこの宣伝にも裏話がありまして、「しょ〜〜〜じき、デカいけど、コンパクトさを強調して売りたい・・・、おっ?!お前、手がデカい!!お前が持て!」
こうして手タレに抜擢されたのが、異動してきたばかりの蓑輪さんでしたwww
しかも、立体的に見せるために、鏡の上でR-1を持ったところ、「お前、毛深い!剃れ!!」
これが除毛クリームを手の甲に塗った初体験だったそうなwww
(手タレ:蓑輪社長)
こんなの、面白くないわけがありません。
ある年の楽器フェアで、「もうすぐ2年が経ちますが、仕事が面白くなってきたので、もう少しこっちにいていいですか」と、往復切符だったはずの東京行きを、自ら片道切符に変えた日のことは、今もよく覚えているそうです。
この後に発売されたのが後継機種の「R-09」でした。
企画段階から携わり、たくさんの要望を浜松の開発部署へ提案したそうです。
こちらは、蓑輪さん号令のもと、社内で(お金をかけずに)作られた製品付属のガイドブックで、店頭でも無料で配布されました。
メルマガ編集部員が制作に携わり、「すごく面白い仕事だった」と当時を思い出していました。
当時、「生録」というキーワードで製品を打ち出し、「小鳥のさえずり」から「オーディオマニア」にターゲットを移す、というのが蓑輪さんのアイデアだったそうです。
新製品発表会では、あるホテルに各種メディアライターを集め、一人1台ずつR-09を渡しました。ステージで音大生に弦楽四重奏などを演奏してもらい、ライターさんたちに実際に録音して音を聴いてもらいました。
当日録音に使ったR-09は「そのままお使いいただいて、何かコンテンツ出してください」とお願いしたそうです。
そりゃあ、ライターさんたち、みんな使いたいに決まってますよ!わたしも取材のときは必ず後継機種のR-07を使います。誰の声もバランスよく、後からクリアに聞き取れるので。
こうして、各種Webメディアやパソコン、音楽雑誌などに、一気に「R-09」「生録」の文字が躍りました。
新規に立ち上げたばかりのEDIROLブランドはRolandブランドと比べても知名度が低く、こういった雑誌やメディアに記事を掲載してもらうために蓑輪さんは日々奔走していたのでした。
またあるときは、「家電量販店のオーディオコーナーがマーケティングの肝になる」と考え、「閉店後20分だけ時間をください!」とお願いし、社内ギタリストを連れて、その場で録音して聴かせました。20分きっかりで終わるプレゼン台本を用意して。
次の日、そのコーナーでいきなり100台も200台もバカ売れしたそうです。
同時期に発売され、現在でもネット系アーティストに人気のオーディオ・キャプチャー「UA-4FX」では、パーツ屋でオーディオマニアに響くつまみを自ら購入し、「こういうのじゃないとダメです!」と開発部署を説得。真空管をイメージしたLEDは、わざとボワっと光るようにしました。
UAシリーズもレコードやカセットをデジタル録音する「アナデジ録音」という流行語を生み出したほど、バカ売れしました。
その後、他社さんも含めたオーディオインターフェース、フィールドレコーダーの快進撃はみなさん、よく知るところですよね。一気に楽器店にレコーダーコーナーができ、あらゆる機種が発売されましたから。
ちなみに、「ローランドって、最初に発売するんだけど、その後、他社さんに持っていかれるのも早いw」と社長自ら自虐ネタでわろてましたwww
その後、Cakewalkを買収した折には、アメリカから開発担当エンジニアを日本に呼んで、一般のお客様をご招待してローンチ(発表)イベントを開催したり、SONY社のVAIO、Apple社、富士通社などとのコラボイベントを積極的に執り行ったり、さまざまなマーケティング戦略を考案していきました。
(ユーザーイベント「SONAR Premium Day」での蓑輪さん)
特にR-09のマーケティングについては、蓑輪さんによる功績を疑う人は社内にひとりもいません。
そうして、すっかりハマった営業推進の仕事でブイブイ言わせていた蓑輪さんに、またもや暗黒の転機が訪れます・・・。
それは、海外営業部への異動でした・・・。 しかも、英語ペラペラでシンセとドラムを担当していた方の後釜として。
「えぇ〜・・・、英語もできないのに・・・」
自分の武器である「DTM」をもがれ、「言葉」をもがれ、当時の蓑輪さんの心境としては、「目立ちすぎて飛ばされた?」と思ったそうです。
当時をよく知る、メルマガ編集長の足立さん(同じ海外営業部で働いていました)によると、「当時の国内営業推進の勢いはすごく、優秀な人がたくさんいた。そこへ来て蓑輪さんの異動だったので、会社が国内で絶好調のRシリーズなどの海外展開に本気で取り組もうとしてるんだなと思った。確かに最初は英語に苦労されている印象だったが、ものすごいスピードで習得され、本当にすごい先輩たちに恵まれて自分も頑張らないと、と思った。」とのことです。
ですが、ご本人の実感としては、「英語ができないから、何をやるにもスピードが劣る。シンセもドラムも詳しくない。上司にも自分には答えられないようなことで詰められ、役に立っていなかったと思う」という、苦しい時代でした。
この頃、リーマンショックを起点にローランドは4期連続で赤字を出し、社内全体に閉塞感が漂っていました。
転機が訪れたのは、得意分野である音源モジュールとオーディオインターフェースの合体製品SonicCellとSONARが同梱されたパッケージ製品について、スムーズな説明ができたときのことです。
「こいつ役に立たん」感で接していた上司が「おっ?これはできるのか!」と見直してくれた実感があったそうです。
この経緯があり、2013年、RPGカンパニー(以下、RPG)立ち上げの際、社長となった上司が右腕として呼んでくれたのでした。
RPGに課せられた使命は、「ローランドのブランド復権」でした。4期連続の赤字は、単なる売り上げの低下だけではなく、やはりお客様からの「う〜ん、なんかちょっと」というメッセージだと考えたのです。そこで、もう一度、原点に立ち返り、お客様が期待しているローランド像を徹底的に分析しました。
こうして、みなさまから愛されたローランドの象徴的な製品に、新しい技術を盛り込み、単なる復刻ではなく、「お客様の求めるローランド」と「ローランドからの提案」を融合させたAIRAシリーズが誕生したのです。
蓑輪さんは、AIRAの特徴であるグリーンの縁取りを塗装ではなく、樹脂で成型することにこだわりました。楽器にとって縁は車のバンパーと同じで、運ぶうちに傷が付く。そのときに「色が剥げた」とならないためです。
展示する什器(展示台)は、EDIROL時代に培った社内外の人脈で、懇意にしていた職人さんに作ってもらいました。
また、その後発売されたBoutiqueシリーズでは、「取っておきたくなる箱」にこだわりました。本棚に並べてコレクションとして箱も楽しめること。
これらの細部に渡るこだわりは、元々の「凝り性」な性格に加え、どんなことにも意味を持たせたい、それからお客様に「くぅぅ、ローランド、分かってるな〜」と感じていただきたいという思いからくるものでした。
2017年のある日、ローランド社長に呼ばれRPG社長の座を引き継ぐように任命されました。
2019年には、執行役員として、シンセ2部署、Roland Cloudの立ち上げ、さらにエアロフォンまでを見ることになりました。
この頃、ローランドには二つのシンセ開発チームが存在していました。AIRAなどを担当するRPG(東京と研究所)、通称「緑チーム」と、JD-XAやFantomなどを担当する浜松本社開発、通称「赤チーム」です。
もちろん、最初は理由があって二刀流になっていたのですが、もはやその経緯も薄れ、「このままでは同じ社内なのに対立関係になりかねない」と危惧した蓑輪さんは、ローランド社長に「いいかげんにやめた方がいいですよ」と超率直に進言しました。
「たしかに。それもそやな」と、あっさりと認められた結果、双方のエンジニアとマーケッターが手を組んで実現したのがサンプラーのヒット製品「SP-404MKII」でした!それまでは「技術的に無理」だとか、さまざまなハードルがあったんです。もし、蓑輪さんが組織変更を進言していなかったら、SP-404MKIIは世に出ていなかったかもしれません。
これまで「人と人とをつなぐ仕事」を多く経験してきたおかげで、いつの間にか潤滑油のような役割が得意になっていたんですね。
前編で「あのキャリアの積み方は、社長を狙っていたとしか思えない」という噂が立ってたと書きましたが、すべてがきれいに繋がっていて、確かにそう思われても不思議はない道筋です。
こうして2022年、ゴードン・レイゾン氏が社長に就任すると同時に次のバトンが渡されることを告知されていた、というわけでした。
「経営に興味がある」と明確に意識して仕事をしていたわけではなかったそうですが、今はどうでしょう?
「楽しいですよ。 社長の仕事のひとつに、意見が対立したときの調整役というか、組織の舵取りということがあると思います。
かつて、先輩たちがやりたいことを思いっきりやって、輝いていた。時代を先取りするゲームチェンジ製品もいっぱい出してきた。 遠慮も忖度もしない社風だからこそできていた。
そういうやんちゃなローランドを知ってますから、会社の成長と共に生まれた『これはやっちゃいけないんじゃないかな』という空気を壊し、50年後に『あの頃のローランド製品はすごかった』と思い出されるような製品をいっぱい出したいと思っています」
最後に、メルマガ読者様にメッセージはありますか?
「大学時代に受け取ったエントリーシートの封筒に印刷されていたキャッチコピーが『We Design the Future』でした。わたしはこの言葉が好きなんですよ。
1980年前後にアメリカのマーケティング部署によって作られたコピーで、当時は『We』とはエンジニアを指していたと思うんです。
けれど、たとえば発売当初はあまり市場に受け入れられなかったリズムマシンTR-808が中古市場で安く取引され、ヒップホップ、ハウス、R&Bなどのミュージシャンによって新たな価値を吹き込まれたように、『We』にはミュージシャン、お客様、取引店様、そしてもちろん、メルマガ読者様も含まれていると思っています。
これからのローランド、これからの時代の音楽を、ぜひ、一緒に創りましょう! We Design the Future Together!」
じーん・・・。 社長の言葉って、やっぱりジーンとするんだよな〜。
このメルマガでは、これまで、三木純一さん、ゴードン・レイゾンさん、そして蓑輪社長と、3人の社長にインタビューしてきました。
それぞれの魅力がありましたが、今回の蓑輪社長は、「お客様にいちばん近い社長」という印象を受けました。ローランドからの封筒に心震え、ローランドを作りあげてきた先輩たちに憧れ、いくつもの新しいチャレンジにも立ち会ってきたご経験がそう思わせるのかな。 お話にパッションがあって、何よりローランドとお客様が大好きな社長です。
わたしが新入社員の『蓑輪くん』の研修を担当した頃のこと、よく覚えています。今回、お話を伺って、あの頃「朴訥(ぼくとつ)で真面目なエンジニア」という印象だった『蓑輪くん』が、仕事の喜びだけでなく、苦い経験も糧にし、このたび社長に就任するまでの成長物語を、勝手ながら親心に近い想いで聞いていました。
そして、蓑輪社長より年上の、旧知の社員たちが一丸となって若い社長を支えてついていこう!という姿勢が取材から編集までの中に垣間見えて、じーんとしました。わたしはもう退職した部外者ですが、今回ばかりは「蓑輪社長と素晴らしい仲間たちをどうぞよろしくお願いします」という気持ちでいっぱいです。
当記事はメルマガ「ローランドの楽屋にて」のバックナンバーです。本文中の製品情報や社員の役職等は配信当時のもので、現在とは異なる場合があります。
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これからも全力でゆるい楽屋ばなしをお届けしてまいります!
ライター・プロフィール
楽屋の人:坪井佳織 (つぼい かおり)
電子ピアノや自動伴奏の開発に携わっていた元ローランド社員。現在、本社近くでリトミックを教えています。元社員ならではの、外でも中でもない、ゆるい視点でメルマガを執筆しています。どうぞよろしくお願いします。
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