D-50伝説のパッチの謎を追え!

配信日 2020・9・10

おはようございます。
坪井佳織です。

みなさんは、D-50というシンセサイザーをご存知ですか?

1983年に発売されたヤマハさんのDX7は、FM音源を搭載した画期的なデジタル・シンセでした。これに遅れること4年、後発のローランドが1987年に発売した初のフル・デジタル・シンセサイザーがD-50でした。アタックの部分にPCM音源を、その後ろにアナログ様式のシンセ音源を持つことで、(当時としては)リアルな波形とアナログ・シンセのような直感的な音作りの両立を可能にしたLA(Linear Arithmetic)音源を搭載してました。

D-50の魅力はなんといってもプリセット音色の素晴らしさです。多くのアーティストの楽曲で「これ、D-50!!」とすぐに分かるサウンドが使われまくっていました。
たとえばこのプリセット44番の「Pizzagogo」。

https://youtu.be/LTrk4X9ACtw

もうイントロを聴いた瞬間に「この音じゃないと、この曲じゃない!」ってくらい印象的なサウンドですよね。

そして、プリセット21番の「Digital Native Dance」の「ごぉ〜〜〜ん(ちゃかぽこ)」というサウンドはマイケル・ジャクソンの「Dirty Diana」のイントロをはじめ、マイルス・デイビス、デイヴィッド・リー・ロス、松田聖子など、ジャンルを問わず世界中の多くの楽曲で使われました。

https://youtu.be/yUi_S6YWjZw

ここから本題です。
まず、これらのパッチのサウンド・デザイナーである、エリック・パーシングさんの解説動画をご覧ください。

https://youtu.be/VggsB5eZ0oM?t=91

(字幕をオンにしてご覧ください)

インタビューの中で「Digital Native Dance」がまったくのアクシデントの結果誕生したと語っています。社内でも、あの音は当時の音屋さん(※)が意図的に作った、いやいや偶然の産物だった、など諸説あります。

※編集部注:ローランド社内ではサウンド・エンジニアのことを「音屋(おとや)さん」と呼びます。

そこで!

実際に34年前にD-50のPCMサウンドを開発していた当時の音屋さんを捜し出して、開発秘話を聞いてみました!伝説のパッチ「Digital Native Dance」は偶然の産物なのか、狙って作ったのか!?

2回にわたってお届けしたいと思います。お聞きしたのは、石崎弘司さんです。

ご覧の通り、わたしよりもお年を重ねられたレジェンド開発者なんですけど(既にローランドは退職されていますが、今でもAIRA製品やZenologyなどのチェックにご協力いただいてます)、実は、いまだに、めっちゃかっこいいオリジナル曲のトラックを制作してはYouTubeなどにアップしていらっしゃいます。

https://www.youtube.com/user/LTPakaHIROSHI

何しろ、DTMやMIDIがまだ無い頃から、テクノ・サウンドにショックを受け、趣味で自動演奏マシンを自作し、「これ、イケるかもしれん!」とローランドに転職された方なので、筋金入りです。

石崎さんは、元々、最初の就職をするときに「ずっと楽器を好きでいられるのか自信がなくて」電子計測機を作る会社で、回路設計などを担当していらっしゃいました。

あるとき、「楽器は弾けないけど、電子で音楽ならできるかも!」と、とりあえず、モーグ・シンセサイザーを「いくらですかー?」と聞きに行ってみたそうです、まぁ高いのは分かってたけど、一応。
答えは「600万円ナリ〜!」

社会人になりたての石崎さんには当然、無理です。

「なので、まずは、元々持っていたシャープのMZ-80Cというパソコンを使って、CV(音の高さ)とGATE(音の長さ)をコントロールするインターフェースと、演奏するためのシーケンサーをちょっと作ったんですよ」

ん?
ちょっと作った??

「まぁ、けっこう大変なんですけどね」

・・・でしょうね。

「正月休みに寝食を忘れてプログラミングに没頭して、家にあったオシロスコープで計測してみたら、ちゃんと電圧とかゲートとか出てきたので、あぁできそうだな、と」

んんん???
家にあったオシロスコープ?!
ちょっと待ってください、社会人なりたてですよね?
おかしなワードがいっぱい出てきますが、とりあえず、先を聞いてみましょう。

「手応えを感じたので、そこから毎週末、Roland SYSTEM-100mを2〜3台ずつ買い集めていきました」

SYSTEM-100mは、当時、ひとつ2〜4万円くらいの音源モジュールで、バラ買いができました。

(Rolandミニ総合カタログVOL.2(1983年)より)

「当時持っていたリズムマシンのTR-606からトリガー(きっかけ)を出すことで、自作シーケンサーと同期できることが分かりましたが、いわゆる仕様が分からないんですよ。

それで、オシロスコープで電圧などを調べて、TR-606をクロック・マスターとして、SYSTEM-100mを自動演奏させることができました」

みなさん、ふむふむと読んでるかもしれませんが、よく考えてください。
ローランドの技術者でもなんでもない、社会人なりたての青年が趣味でやってることですから! 面白すぎます。

「これだけ好きなんだから仕事にしてもええやろと思って、ローランドに転職しました。

今でも覚えてるんですけど、面接のときに『入社したら何がやりたいんや』と聞かれて、電子で作られている楽器だから、次は装置同士が通信する時代が来るんじゃないですか、って答えたんですよ」

ですよね、だって、趣味で同期させてますからね。

「そしたら、ちょうどローランドがMIDI規格の立ち上げをしていたところだったみたいで、『おまえ、分かっとるやないか!!』ってことで入社できました」

それは衝撃だったでしょうね!

こうして無事にローランドに入社した石崎さんでしたが、当時、浜松へやってくると、「住むところ、契約しておきましたんで」と案内されたのが、ボロッッボロのアパートだったらしいですwww。

引越しの手伝いに来たお母さんが、「こ、こんなところに住むん?」と、泣いたらしいです。
親を泣かせる社宅とはwww

初日には電灯もなかったので、大家さんが「夜逃げした人が置いてったのがあるよ」ってくれたのをつけたそうです。

何から何まで面白いスタートです。

さて、次回は、いよいよ入社からD-50開発までをお伺いします♪ お楽しみに〜〜。

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ライター・プロフィール

楽屋の人:坪井佳織 (つぼい かおり)

電子ピアノや自動伴奏の開発に携わっていた元ローランド社員。現在、本社近くでリトミックを教えています。元社員ならではの、外でも中でもない、ゆるい視点でメルマガを執筆しています。どうぞよろしくお願いします。

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