MC-707と101の開発裏話

配信日 2019・09・19

おはようございます。
坪井佳織です。

みなさんは、MC-303というローランド製品をご存知ですか?
1996年、GROOVEBOXという新しい概念で、当時はテクノやクラブがブームだったので、大ヒットした商品でした。

わたしはその頃、製品に入れる音楽データを作る部署にいて、最初に企画が持ち上がったときのことはとてもよく覚えてます!正直、何を説明されているのかよく分からず(^^;;
それもそのはずです、世の中にない楽器だったんだから。

その後、MC-505、307、909、808とシリーズは続きました。

あれから13年。
新しいGROOVEBOX、MC-707とMC-101が発表されました。

開発リーダーは、久保和広(くぼかずひろ)さん。ちょうどMC-808が発売された直後に入社したため、現役時代を知らないリーダーです!

幼少期は運動大好き、バレンタインデーに「わーい、おかーさん、チョコもらっちゃったー!」と無邪気に報告する、さわやかサッカー少年。
おまけにクラス委員長や生徒会委員などの活動にも積極的に参加。あれ?マンガの主人公かな?

高校2年生のとき、友人に誘われてゲームセンターでプレイした「ビートマニア」をきっかけに、DTMやDAWにハマったそうです、急に。自分が作ったフレーズを「よかったよ」と使ってもらえることが嬉しかったとのこと。エンジニアに多い気質です。「人が喜んでくれるのが嬉しい」っていうの。

教科書にサンレコ(リットーミュージックさんのサウンド&レコーディング・マガジン)を挟んで授業に出る日々を送った大学では、情報工学(信号処理)を学びました。第一志望のローランドに入社したあとは、さっそくDTMの開発部でMIDIコントローラーやオーディオ・インターフェースなどを開発。その後、AIRAシリーズ(TB-3、TR-8、VT-3、SYSTEM-1)、DJ-808のソフトウェア担当を経て、とある製品の開発リーダーに抜擢されました。

ところが、何も知らないままにとても難しい他社さんとのコラボ製品だったため、いままでのローランドの仕事のやり方が通用せず、一生分、頭を下げ続けた暗黒の1年半だったそうです(涙)。

「たくさんの失敗をさせてもらい、あのときしか学べなかったことがあった。今がいちばん底で、もう上がるしかないという謎のポジティブ精神で乗り切りました」

この経験が元になり、

ゆずれないものをしっかり持つ
知らないことは真摯に教わる


という仕事の姿勢ができ、「会社に苦手な人がいないんですよ、すごくいい会社です。感謝しかないです」と、本気でキラッキラと語ってました。

さて、今回MCシリーズを開発するにあたり、久保さんはMC-303などオリジナルのGROOVEBOXのことを知らないので、世界中のミュージシャンやパフォーマーにインタビューしました。そして、「GROOVEBOX」を「Electronic Musicを制作してパフォーマンスする過程(ワークフロー)そのもの」と再認識したそうです。

「僕が理解したMCシリーズのコンセプトは、箱開けて電源入れて再生したらかっこいいサビが流れるってことでした。そこは踏襲したまま、僕の捉えた再認識を形にするために、1ヶ月間、100枚以上の絵を書き続けました。逆に言うと、そのぐらいの時間をもらえたってことです」

「一応、仕様をドキュメントに起こそうとは試みたんですけど、GROOVEBOXや音源の知識が足りなくて、あまりにもたいへんだったんです。それで、ものすごく抽象的な概念をホワイトボードを使って説明し、開発メンバーが「こういう解釈でいい?」と確認しながら形にしてくださいました」

開発のときのホワイトボードの写真

コンセプトから何かを掴み取って形にしてくれるって、すっごく想像できます。ローランドの開発者って、そういう人が昔から多かったです。むしろ、そのことに喜びを感じて「楽しかった〜♪」って言ってくださる方が。

こうして、久保さんは新しい時代のGROOVEBOXを誕生させたわけなのですが、オリジナル製品群への敬意を込めて、ミドルオー(真ん中がゼロの型番)を継承することにしました。“8”トラックだし、TR-808やJUPITER-8など、ローランドにとって革新的な製品の象徴が“8”であることから、本当は「MC-808」にしたかったのですが、既に発売済みだったため、MC-707にしたそうです。

・・・と、ここまでは、昔のMCをよく知っている(つか、MC-505持ってる)わたしとしては、ふむふむと聞いてました。「まぁ最近の曲っぽいパターンが入ってるんだろうな」と思いながら、一応、ヘッドホンで聴かせてもらったら・・・!!

↓見て、このわたしの顔w

「マジ?!?!
これ、パターンなの?!」


かつて制作していたからこそ、音のものすごさに驚愕しました・・・!
今、こんなんなんですか?!電子楽器!

世界中の新進気鋭のミュージシャンに実機を渡して制作してもらった曲が12曲分。これからもSDカードでどんどん増やせるようにする予定だそうです(編集部注:2019/9/19現在、8曲が追加公開されています)。実機で制作したということは、同じ曲が自分でも作れるということです。

も〜、ぜひぜひ楽器店で聴いてみて欲しいです。
昔のMCシリーズをご存知の方にこそ。びっっっくりすると思います。
わたしと同じ顔して欲しいですw

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当記事はメルマガ「ローランドの楽屋にて」のバックナンバーです。
本文中の製品情報や社員の役職等は配信当時のもので、現在とは異なる場合があります。

これからも全力でゆるい楽屋ばなしをお届けしてまいります!

ライター・プロフィール

楽屋の人:坪井佳織 (つぼい かおり)

電子ピアノや自動伴奏の開発に携わっていた元ローランド社員。現在、本社近くでリトミックを教えています。元社員ならではの、外でも中でもない、ゆるい視点でメルマガを執筆しています。どうぞよろしくお願いします。

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